一人暮らしのしょっぱさと、母の甘い卵焼き
「新生活」そう聞くとワクワクしてきますよね
でも、「一人暮らし」そう聞くと、少し胸が押しつぶされそうになるのは私だけでしょうか?
私の家は裕福ではなく、母は病気がちで父の仕事も上手くいかず、私も引っ込み思案なところがあり、不安定な学生時代を送っていました
不登校気味だった中学を卒業後、
通信高校に通っていた私は、平日はアルバイト、日曜日は学校へ行くという生活を3年間続けました
周りの友人達もあっけらかんとしており、縛られることもなく自由な高校時代を過ごしていた私でしたが、ひとつだけ心に決めていた事がありました
高校を卒業したら、絶対に一人暮らしをする!!
誰よりも早く自立することに憧れがあった私にとって、それを叶えるのは難しいことではありませんでした。
卒業後、就職先が決まり次第すぐに不動産屋に向かい、その勢いですんなり契約。
アルバイトで貯めた頭金と少ない貯金を握って、念願の新たな生活へと一歩を踏み出したのです
親には一切頼らず、全てを自分一人でやっていく
18歳なんてもう立派な大人なんだもん。自信はある。お金はないけどどうにかする
心配や不安なんて言葉は頭にはない、だって全てが自由。
思い通りのお洒落な生活が私を待っている!
これから新しい人生を送る10畳のワンルーム。日当たりは良好!
引っ越しが終わって、テーブルと布団と小さな棚しかない部屋を携帯でパシャリ
その写真を一番に送ったのは、母でした
でも、その返信は
「あっそ。」
その一言だけ。その時の私は、母の気持ちなんて考えもしませんでした
時が経つにつれて、最初に感じていた期待と喜びなんて、直ぐに打ち砕かれました
家賃や光熱費の支払いが遅れ、何度も大家さんに怒られ
ゴミの分別が出来ていないと、部屋の前には漁ったかの形跡のゴミ袋が無残に置かれていたり
結局、昼職だけでは生活が出来ず夜のアルバイトを始めるようになり、あまりの疲労に涙が止まらなくてそれでも逃げられないことに、お金を稼ぐ大変さを身をもって思い知ったり
そして20歳の誕生日。1月8日の成人式後、静かなワンルームで一人、振袖姿の自分を見たときはなんとなく寂しくて切なくて。自分からでかい口を叩いて家を出たくせに、ただそのときだけは、とてつもなく父と母に甘えたくなった瞬間でした
その頃から、休みの日には定期的に実家に帰るようになり、父と母とよく話をするようになりました
お酒を飲みながら、ひとつひとつ話題を探してまるで幼い子供のように
「お母さんあのね、聞いてお父さん」
どこか嬉しそうに、私のどうでもいい話を聴いてくれた父と母
朝起きて「今日はそのまま仕事に行くから」と実家を出るとき、お母さんが駆け寄ってあるものを渡してくれました
「お昼に食べなさい。頑張ってね」
どこか見覚えのある包みに入っていたのは、お母さんの手作り弁当でした
受け取った瞬間、ほんのり温かくてその感触が懐かしくて、どこか照れ臭くなったのを覚えています
「お母さんありがとう。」
久しぶりのお母さんの卵焼き。甘くてちょっと焦げていて、でも大好きでした
ちょっと塩辛い鯖の塩焼きも、私の好きだった蓮根のはさみ焼きも金時豆も、しばらく忘れていた味
一人暮らしの部屋にはない家族の有り難みや優しさが、詰め込まれているような気がして、心から嬉しくて涙が溢れ落ちたのは今でもしっかり覚えています。
何でも一人で出来ると思っていたけど、いつでも一人ではなかったこと。いつも心配してくれる家族がいたから、私はここまで頑張れたのです
当たり前の事を継続していくことは、実は一番大変なことでした
だから、出来なかったからといって自分を責めることはないのです。みんな同じように苦労して頑張っているから、何も恥なくてもいい
そう思えるようになったのは、もっともっと先の話ですが、、
一人暮らしで気づいた、自分の弱さ。そして、家族の有り難み
月並みですが、大切なことを学びました
今では、結婚して私にも大切な家族が出来ました
たまに実家に帰ると母に言われるのが
「ねえ、卵焼き作ってよ。あんたの卵焼きは美味しいものね」
あの日のお弁当がきっかけで、自炊をするようになった私。
一人暮らしの時に、何度も何度も作っては失敗して、何年もかけて自分なりに研究した卵焼き
美味しい!って、主人にも大好評だけど、、、
なぜか母の卵焼きにはどうしても近づけません
あの、甘さ加減と少し焦げた卵焼き。それはきっと不器用な母だからこそ出来た、秘伝のレシピなのかもしれません
街を見渡せばマンションやアパートが溢れ、その窓一つ一つにそれぞれのストーリーがあります。私だってその一人でした
泣いて笑って怒って、そんな一つ一つの経験が今の私に繋がっています
辛い思い出だって、今なら受け止めることが出来る
少しでも強くなった証拠かもしれません
上手くまとまらなかったけれど、これが私の一人暮らしのお話です
長々とありがとうございました